和音感持ちのヘンデリアン

モーツアルトやベートーヴェンも讃えまくっていたバロック時代の作曲家ヘンデル(1685.2.23 - 1759.4.14)の和音語を和音感で解析し、その構文を探る

番外:原体験としての「Greensleeves」と「Concerto Pour Une Voix」


Saint-Preux - Concerto Pour Une Voix (1969) - Concerto Pour Une Voix

遥か昔の話だが、幼児音楽教室に通わせてもらった私は、そのまま同じ先生で「幼児のためのバイエル」に進んだ。練習曲の仕上げに、先生が、「バイエル」の譜面が曲の一部になる連弾をしてくれたので、あまり面白いとは言えない「バイエル上巻」が、活き活きとした音楽の合奏になって、とても楽しかった。「バイエル」は機能和声の導入編の教本なのだろう。I-V-I…V-I-IV-I-V…のような和音進行ばかりだった印象がある。

一方、副教材の曲集に「グリーン・スリーブス」が収録されていた。「バイエル」とは異質の音程感で、初見では戸惑ったが、指が慣れると、何故か故郷の歌のように感じた。

「グリーン・スリーブス」(16世紀に成立したイギリス民謡)は、微妙に異なる様々なバージョンがあるが、Wikipediahttps://en.wikipedia.org/wiki/Greensleeves)に載っている“ヘ長調”の楽譜に従って、私が素直に伴奏のコードシーケンスを書くと、

A------------las, my love, you     do me wrong, To
ソ(Gm)→B♭(シ♭レファ)→F on A(ラドファ)→
cast me off dis---------------------------------courteously,
Gm(ソシ♭レ)またはE♭(ソシ♭ミ♭)on G→D on F♯(ファ♯ラレ)→
For               I have loved you      well and long, De------
ソ(Gm)→B♭(シレファ)→F on A(ラドファ)→
-lighting                 in your                           company.
Gm(ソシ♭レ)→D on F♯(ファ♯ラレ)→G(ソシレ)

となる。順次下降するベースラインが肝だと感じるので、それらを根音として解析すると、B♭→Am+5→GmまたはGm+5→F♯m+5…というシーケンスになり、なるほど、モードの流れに整合性がある。

 エレクトーン教室に編入すると、最初はI-IV-I-V…(「トム・ピリビ」)や、i-iv-[平行転調]V7-I/[平行転調]V7…(「シェルブールの雨傘」)といった、やはり機能和声の基本形という感じの練習曲が続いたが、少し昇級すると、「二人の天使」(原題はConcerto Pour Une Voix)という、バロックの香り漂う曲(20世紀に作曲されたイージーリスニング)が登場した。それまでの練習曲より瑞々しい響きに魅かれ、モノにしようと、自分が知っていた範囲のコード記号をつけたのだが、「??」となった。特に印象的な“Aメロ”の循環コードシーケンスをイ短調で書いたものを再現すると、

Am→E7→A→Dm→G→C→B→E

となる。なんだこりゃ。

楽譜のアレンジが分散和音で鍵盤上を飛び回っていたせいで、当時は全く気づかなかったのだが、実はこのコードシーケンス、鍵盤上で隣の音に指を動かしながら、和音の一番下の音をラ→ソ♯→ラ→ラ→シ→ド→レ♯→ミと移動させれば、各コードの構成音を押さえられる滑らかさ。

多分、鍵盤楽器で作曲して、Amの調でi-V7-I[ワンポイント同主転調]-ivときて、Cの調に平行転調してV-Iときて、再び平行転調してAmの調で普通ならiv-V(Dm→E)ときそうなところ、ワンポイント半音上昇転調でD♯m+5(Bと同じ構成音)を通ってE。

機能和声理論ではAm→E7→Am→Dm→G→C→Dm→Eとくるのが普通のセンスであるところ、バロック風味でAm→E7→→Dm→G→C→D♯m+5→Eとして、“揺れ動く想い”のような魅力的な流れを作ったのか。更に根音による解析も試みたけれど、この曲のモードは、E7がA♭dim+5(ワンポイント半音下降転調)かも…と感じる以外は、そのままの印象。