和音感持ちのヘンデリアン

モーツアルトやベートーヴェンも讃えまくっていたバロック時代の作曲家ヘンデル(1685.2.23 - 1759.4.14)の和音語を和音感で解析し、その構文を探る

2.和音感で探る「Sarabande in D minor」


Handel : Sarabande from Suite in D minor, HWV 437

ヘンデルハープシコード組曲 第2集 第4曲 サラバンド (HWV437)(composed in 1703, published in 1733)

一見シンプルな和音ばかりに見えるが、なぜか漂う情感がすごいことになっているこの曲。スタンリー・キューブリックの映画「バリー・リンドン」にBGMとして使われている。
短調で最初のコードはDmとくれば、安定の響きかと思いきや、やけに情熱を帯びた不安定感が…
このDm、ラド♯ミ→ラレファ→ラミソ→ラレファ→ラド♯ミというような耳馴染みのある(暗い情熱を孕んだ)モチーフの途中の音になっていて、Aコードに解決したがっている。響きの性質的にはAaug sus4(A11/-13)…と仮定してみた。

ラレファ(Aaug sus4を秘めたDm)→ミソ(ラレミソ:A7 sus4の一部)→ラド♯ミ(A)

ドファラ(C6 sus4を秘めたF)→ソシ♭(ドファソシ♭:C7 sus4の一部)→ドミソ(C)

ファ♯ラ(レファ♯ラ:Dの一部)→レソシ♭(Daug sus4色が一層強いGm)→ラド(レソラド:D7 sus4の一部)→レファラ(Dm)

ドラ(レファラド:Dm7の一部) [助走と踏切] →シ♭ラレ(シ♭レファラ:B♭M7の一部) [これが絶妙!この時代にM7コードをさらっと使いこなしている人、珍しい] →ソレ(シ♭レミソ:B♭6 -5の一部) […からの華麗なる憂いを帯びさせる絶妙な受け] →ミ [前のコードの残り香から次のコードへ] →ミラド♯(A)

Dm―A→F―C→Gm―Dm→B♭―AというFoliaの骨格に沿って、sus4で駆動して解決和音に落ち着くことを繰り返しつつ、それぞれの山に微妙に異なる情感を演出して(各山の最初の和音の性質を見抜いて、きれいに流れを作って)、クライマックスに向かって盛り上げている構造がよく見える。