和音感持ちのヘンデリアン

モーツアルトやベートーヴェンも讃えまくっていたバロック時代の作曲家ヘンデル(1685.2.23 - 1759.4.14)の和音語を和音感で解析し、その構文を探る

1.ヘンデルの音楽のどこがすごいって…

どうも最近、ヘンデルの作曲術の真価をわかっていない人々による乱暴な言動や、メディアによる矮小化の意図があるかのような伝え方が気になる。
ヘンデルが書いた音はテキトーな勘?!ヘンデルはむしろビジネスマン?!単にキャッチーな当世風の音楽を書いた人?!

ヘンデルの曲について、私が感じるのは、すっきりと聴き易い音数で、「最適解」の音が選択されていること。
「キャッチーなメロディ」のうちのどれがヘンデルのオリジナルなのかは知らない。
ヘンデルの音楽の文体を聴き分けるポイントは、そこではない。
・和音進行においては、類い稀な和音感的センスによってもたらされる、芝居的に絶妙な情感の移ろいがある。
・和音の構成音は、引き算の美学というか、本当に必要な音しか書いていなくて、効果的な音が、気持ちのいいところに入ってくる団子になって意味不明になる響きもなく、不快なところに入ってくる倍音も生じない。(ヘンデルは、オケのチューニングに居合わせることを嫌ったというから、かなり聴覚が敏感だったと思われる。)
・対位法的には、有機的な和音進行を構成しつつ、どのパートの旋律にも歌を与え、音楽が描き出す景色の豊かさを最大化している。
・時々音の冒険もしていて、巧みなルートを辿ってきれいに回収して、面白い効果を奏している。
私の感覚では、純粋に音楽の詩の響きの粋を極めているところが偉大。
錚々たる作曲家達が「ヘンデルすごい!」と言っていたと伝えられている(下の<引用>を参照されたし)。もし「理論」から外れているのなら、その理論は不備であるか、部分的に適用されるべき理論であるか、または別の様式の理論であるかのいずれかだ。

情感が細かく移ろうアルペジオのコードシーケンスを、今作ってみた。ヘンデル風ではなくて、私の手癖ですみませんが。

ソドミ♭(Cm)→ソシ♭ミ♭(Cm7の根音省略だが、E♭と同じ構成音)→
ファシ♭ミ♭(B♭sus4)→ファシ♭レ(B♭)→
ミ♭シ♭レ(A♭sus2sus4の根音省略だが、E♭M7の3度省略と同じ構成音)→ミ♭ラ♭ド(A♭)→

レラ♭ド(A♭-5)→レソシ(G)→

ドミ♭ソ(Cm)→(上に)ドシド~(Cm-CmM7(Gでもいい)-Cm)[終止]

解説すると、Cm→B♭→A♭→Gというわかりやすいコードの間を、ニュアンスカラーのコードがつないでいるのだが、構成音の一部が省略されたコードを、正しく識別するのは難しいということを示したかった。

<引用>--------------------------------------------------------

(和訳は拙訳)
・William Boyce (1711-1779; English composer) is believed to have said concerning Handel's numerous borrowings of others' music,
"He takes other men's pebbles and polishes them into diamonds"
イリアム・ボイス(1711~1779、イギリスの作曲家)は、ヘンデルが他人の音楽から数多の借用をしていることに関して、「彼は他人の石ころをとって、ダイヤモンドに磨き上げる」と言ったと信じられている。

・The composer Christoph Willibald von Gluck (1714~1787) is said to have remarked about Handel,
"The inspired master of our art."
作曲家クリストフ・ヴィリバルト・グルック(1714~1787)は、ヘンデルについて、「我々同業者の天性のマスター」とコメントしたと言われている。

・Upon hearing the 'Hallelujah Chorus' from Messiah, Joseph Haydn is said to have "wept like a child" and exclaimed:
"He is the master of us all."
メサイアの「ハレルヤ・コーラス」を聴いたヨーゼフ・ハイドンは、「子供のように泣き」、「彼は我ら全員のマスターだ」と大きな声で言った言われている。

Johann Sebastian Bach is attributed with the following remark:
"[Handel] is the only person I would wish to see before I die, and the only person I would wish to be, were I not Bach."
Upon hearing the above statement, Wolfgang Amadeus Mozart is said to have exclaimed:
"Truly, I would say the same myself if I were permitted to put in a word"
ヨハン・セバスティアン・バッハは「(ヘンデルは)私が死ぬ前に会いたいと望み、もし私がバッハでなければ、なりたいと望む、唯一の人だ」というコメントと結び付けられており、そのことを聞いたウォルフガング・アマデウスモーツアルトは、「本当に、私も同じことを言う。もし話に割り込んでよければ」と大きな声で言ったと言われている。

Wolfgang Amadeus Mozart is said to have remarked,
"Handel understands effect better than any of us -- when he chooses, he strikes like a thunderbolt... though he often saunters, in the manner of his time, this is always something there."
ウォルフガング・アマデウスモーツアルトは、「ヘンデルは、我々の誰よりも、効果をよく理解している…彼が選ぶ音は、雷に打たれたようにびびっとくる…彼の時代の様式としては、しばしば道から外れていくが、そこにはいつも何かがある」とコメントしたと言われている。

Ludwig van Beethoven is said to have exclaimed,
"Handel is the greatest composer that ever lived... I would uncover my head and kneel down on his tomb."
Source: Edward Schulz (English musician who visited Beethoven in 1816 and 1823), "A Day with Beethoven", The Harmonicum (1824)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、「ヘンデルは、これまで存在した作曲家の中で最も偉大な作曲家だ…私は帽子を脱いで、彼の墓に跪くよ」と大きな声で言ったと言われている。

Ludwig van Beethoven, on his deathbed, in his referring to an edition of Handel's works, is reported to have said,
"There is the truth."
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、死の床で、ヘンデル作品集を指して、「そこに真実がある」と言ったと報告されている。

・In 1819, Beethoven told Archduke Rudolph:
"not to forget Handel's works, as they always offer the best nourishment for your ripe musical mind, and will at the same time lead to admiration for this great man."
1819年、ベートーヴェンはルドルフ大公に、「ヘンデルの作品を忘れないでください。それらは、あなたの成熟した音楽性に対して、いつも最良の滋養を提供してくれますし、それと同時に、この偉大な人物に対する称賛へと導くことでしょう」と話した。

  出展:http://gfhandel.org/handel/anecdotes.html

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